アビガンの効果は「確認できず」だが、有効な可能性も
7月に入って、東京都での新型コロナウイルス感染者が急増し、隣接3県だけでなく、全国で再び感染の広がりが見え始めています。今のところ20~30歳代の若年層が中心で重症患者は一時ほど多くはなく、医療態勢にも余裕があると言われます。が、今後高齢者への感染が広がれば、医療はたちまち逼迫(ひっぱく)することが予想されます。今のうちに、病床を確保したり、検査態勢を整えたりすることが必要です。
そんな中、藤田医科大学の研究チームは7月10日、新型コロナウイルスの治療薬候補として期待されていた抗ウイルス薬「アビガン」について、「有効性は確認できなかった」と発表しました。
アビガンといえば、国内企業(富士フイルム富山化学)が生産していることから、国内の安定供給を確立するために、政府が5月中の承認の見通しを表明していた抗ウイルス薬です(5月11日のニュース参照)。
同研究チームでは、3月から無症状や軽症の患者69人を対象に研究を進めてきました。「入院初日から10日間アビガンを投与するグループ」(36人)と、「最初の5日間は投与せず、6日目から15日目まで投与するグループ」(33人)に分け、6日目までのウイルスの消失率、体温が37.5度未満に下がるまでの時間を比較しました。
同研究チームの発表によると、6日目までのウイルスの消失率は、「入院初日から投与したグループ」では66.7%だったのに対し、「最初の5日間投与しなかったグループ」では56.1%でした。
また、解熱までの時間は、「初日から投与したグループ」で2.1日、「最初の5日間投与しなかったグループ」で3.2日だったということです。
こうした結果から、同研究チームは、入院初日からアビガンを投与したほうがウイルスが消失したり熱が下がったりしやすい傾向は見られたが、統計的に明確な有効性は確認できなかったとしています。
この結果だけを見ると、「アビガンは有効ではない」と結論づけられたと思われがちですが、同研究チームの研究責任医師の土井洋平教授は、「有効性がなかったという結論ではない」と述べています。今回は患者数が少なかったため2つのグループに有意差が見られなかったが、今回の差のままサンプルを200人程度に拡大すると有意差が出る計算だといいます。つまり、アビガンが有効な可能性があるということです。
すでに新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認されている「レムデシビル」では、1000人以上を対象に試験が行われています。その結果、有意差が出て有効性が認められたのです。
わが国の感染状況では、これだけのサンプルを集めるのは難しく、同研究チームによる臨床研究は終了しました。
アビガンの効果を巡っては、この薬を開発した富士フイルム富山化学が、国の承認を目指した治験を進めています。今後、感染者の増加が予想されるだけに、アビガンに限らず、有効で安全な治療薬の開発が待たれます。
■ 感染者が増えてきています。ご自身でも最新情報をテレビだけで求めるのではなく、厚労省の情報などを調べて、不確かな情報をしっかりした知識にしてください。
◆新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)厚労省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html